第1章 初恋は実らない
「……久しぶりだな、水分」
「ご無沙汰してます、相澤先生」
ああ、私はいま普通に話せているだろうか。声は上擦っていなかっただろうか。
初恋を拗らせる自身を滑稽だ、などと思っては見るものの高鳴る鼓動を抑えることは叶わず、どくりどくりと脈打つ心臓が煩わしい。
「まさかお前が教師になるとはな。よろしく、水分先生」
「私もまさか自分がって思ってますよ。よろしくお願いします、先輩」
そういたずらに笑って見せれば、あのころと同じように大きく無骨な手がさらりと頭を撫でた。
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「癒依ちゃん!こっちこっち!」
「みんな、久しぶりー」
母校での初仕事を終え、かつての仲間たちとの飲み会に参加した。今日の名目は私の教師就任祝いらしい。なにかにつけて集まりたいだけなのはわかっているものの、そう銘打たれると嬉しくなるものだ。
「どうだった?久しぶりの雄英は」
「いやぁ、懐かしかったねぇ。先生方も変わらないよ」
端の方で上鳴の「俺も教師になりてー!女子高生と仲良くなりてー!」とか峰田の「女子高生とうはうは……」とか聞こえてくるけど聞こえないふりをしておこう。あ、響香がキレてる。
「相澤先生もお変わりなく?」
「そうだねー、変わらないね。……相澤先生と言えばさ、私、先生のクラスの副担任になったんだよね」
「元教え子が部下ってどんな感じなんやろ、感慨深いもんなんかなぁ?」
「どうなんだろうね、特に何も言ってなかったなぁ」
どう思ってるのかな。私が雄英で教師になったこと。やりづらく、は、ないか。大人、だもんな。
あの言葉の続きは、わかっていたはずだけれど。今でもそうだなんて、思いもしてないのだろう。
「……癒依ちゃん?」
「ん?何?」
「いや、上の空だったから」
「ごめーん、考え事!それよりみんなはどうなのよ!梅雨ちゃんは事務所立ち上げたんでしょ?」
みんなの近況を聞きつつ、頭を占めるのは先生のことばかりで。
あーあ、消化するなんていつまでも無理だなぁ。なんて、分かりきっていることを考えたりした。