第35章 突き刺さった棘は抜けない
不意に悲痛な表情を消した上鳴が、私の手を引き寄せて抱き締める。
「どう転んだって、俺のところには来ないくせに」
「……狡い女で、ごめんね」
そっと背中に手を回せば上鳴の腕も背中へ回って。まるで傍から見ればカップルだな、なんて思いながら。それでも考えるのは先生のことなのだから私は最低だなと思った。どこかにそんな歌詞の歌があったなあ、なんてぼんやりと思いながら。……好きな男じゃ、ないけど。
「まああれだ。とりあえず、泣きたいだけ泣けよ」
背中に回されていた手が私の顔を上鳴の胸元へ押し付けるように後頭部へと移動して。こんな人の行き交う待ち合わせスポットでやめてくれよと思う気持ちとは裏腹に雫は上鳴の胸元を容赦なく濡らしていった。