第35章 突き刺さった棘は抜けない
「待ったか?」
待ち合わせ場所に現れた上鳴を見た途端に目頭がじわりと熱くなって、無理やり笑顔を作って「今、来たとこだよ」と伝えれば苦虫を噛み潰したような顔で上鳴は私の手を取った。
「週刊誌とか見てたけど、水分から何か言ってくんの待ってたんだ」
真剣な顔でそう言われてしまえば、堪えた涙は簡単にこぼれ落ちる。聞きたいことは山ほどあるだろうに、ずっと、ずっと待っていてくれたんだ。
「本当はね、上鳴に相談するようなことじゃないって、わかってるの」
私を好きだと伝えてくれた上鳴に相澤先生のことを相談するのはなんて残酷なことだろうかと思っていた。だから先生から別れを告げられても頼ることはしなかったのだけれど。
けれど先日の出来事は一人で抱えるには重すぎた。重くて、辛くて、私はなんて卑怯な女だろうと思いながら通話ボタンを押したのだ。まるで待っていたと言わんばかりにすぐに取られた電話の先から聞こえた声は優しさに満ち満ちていた。どうしてこの人を好きになれないんだろう、そう本当に思ってしまうくらいに優しさが溢れていた。そう、悲しくなるくらいに。