第3章 消えて泡沫
「君たちと同じ、相澤先生よ」
「えー!まじかよ!」なんて声が上がる。うんうん、そうだよね、そういう感想を持つと思うよ。なんて。
「相澤先生はね、本当はとても優しいのよ。生徒が大事なの」
「初日に2人も除籍にしておいて?」
「そう、それも先生の優しさ。君たちもヒーローになったらいつかそれに気付く日が、」
「なに余計なこと吹き込んでんだ、お前らもとっとと帰れ」
いつの間にか現れた相澤先生に顔を青くしてそそくさと去っていく生徒達。可愛いなぁ、なんて眺めていたら先生の手が降ってきた。
「あいたっ!」
職員室戻るぞ、なんて言いながら私の前を歩く先生の耳がほんの少しだけ赤く染まっていて。
「せんせー、照れてます?」
「調子に乗るな、それからその間延びした喋り方やめろ」
なんて凄まれてしまった。はーい、って返事をしたら更に目付きを鋭くする先生がいて、笑いが漏れた。
普通に出来てる、よね。先生も、あの日のことなんてなかったみたいに振舞っていて、私も出来るだけ今まで通りを心掛けていた。
「……そういえば」
少しだけ神妙な面持ちで私を見下ろす先生が、言いにくそうに口を開く。
「あー、あの日、水分と飯行った日」
「え、あ、はい、あの、ご迷惑を」
「……いや、そうじゃない」
そうじゃなくて、なんて口をまごつかせる先生に首を傾げる。
忘れてくれ、とかかな。言われなくても大丈夫ですよ、誰にも言うつもりもないし、忘れたくはないけれど、秘めておくことは出来る。さすがにそこまで子供ではない。
「大丈夫です、私、別に、」