第3章 消えて泡沫
あの日以来、先生と特別なことは何も無い。当たり前といえば当たり前かもしれないけれど。ただ、私がヒーロー活動した日、時折ニュースで見たらしい先生から連絡が来たりして不器用ながらに心配し激励してくれているらしい言葉にむず痒くなる。
相澤先生の言っていた通り、マイク先生主催の歓迎会も開かれた。あれは正直大変だった。正に阿鼻叫喚。楽しいけれど、絶対に飲まれてはいけない。最後まで素面でいられるかどうかが命を左右する、本当に。相澤先生がダルマに話しかけていたのは衝撃的だった。
学生時代には知ることのなかった先生方の一面を知ることが出来て良かったやら悲しいやらなんとも形容しがたいのだけれども。ミッドナイト先生のふくよかな胸は忘れない。ごめんね峰田くん。
担当クラスの面々は相澤先生の性格も相俟ってか私に懐いてくれていて可愛くてたまらない。あの頃と変わらず入学早々に個性把握テストを行ってさっそく2人除籍にしたこともかなり影響していると思う。
あの瞬間、私は戦慄した。私たちの時の「合理的虚偽」と言ったあの言葉こそが嘘だったと気付いて。両親から受け継いだ複合型個性、それに胡座をかいていた私はきっと真っ先に除籍にされていてもおかしくなかったと気付いて、あの時のクラスメイトに心の中で感謝した。奮起させてくれた彼らがいなければ、私は今ここにいることもなければ、相澤先生と関係を持つことすらなかった。それが良いことか否かはさておいて。
しかしまぁヒーローとして活動するようになった今だからわかることだが、先生の不器用なりの厳しい優しさだとようやく気付いたりもして。知らなかった一面に気付く度に、燻る恋心に簡単に火をつける。
「水分先生」
帰りのHRが終わって教室を出ようとした時、生徒の一人が声をかけてくる。
「はい、なんでしょう?」
「雄英出身なんですよね、担任は誰でしたか?」
群がるように生徒が集まってきて囲まれる。私も8年前はこんな感じだったのかなぁ、なんて少し年寄りじみた考えを持って。