第33章 サヨナラの先を教えてほしい(裏)
ギチギチと音がしそうな程に強く掴んだ腕を引いて、抵抗を続ける水分を仮眠室へと押し込む。ガチャリと後ろ手に鍵をかけて足を進めれば俺から逃げるように後退りする水分がソファにぶつかって倒れ込んだ。焦って体制を整えようとする水分に覆いかぶされば声を上げて俺を拒否する。
「やめてください…っ!」
ああ、どうしてこうなってしまったんだろうな。「いやだ、やめて、」と抵抗し続ける水分を押さえつけてうるさい唇を塞ぐ。唇が重なれば余計に強くなる抗いに悲しさと虚しさと、それを飛び越えて憎らしさまでもが顔を出して。どうしてこんなに想っているのに伝わらない。どうしてこんなに好きなのに、傷付けることしかできない。どうして、受け入れてくれないんだ。俺を想ってくれていた水分はどこへ消えたのか。
後頭部を抱き込んで口内を舌で蹂躙する。必死の抵抗を見せる水分だが、俺の舌を噛もうとはせず、まるでその舌の動きに絆されるように全身の力が抜けていった。いっその事、俺の舌を噛み切ってくれれば。もう俺は止まることは出来ないから無理にでも止めて欲しいなど、なんてエゴイズムだろうか。
やがて抵抗をやめた水分から唇を離せば俺と水分を繋ぐ銀糸が伸びて切れた。まるで、今の俺たちみたいだ。どこか細い糸で繋がっていたはずの想いは5年の時を経て切れた。何度口付けても口付けても離せば切れる銀糸のように、きっとその糸はまた繋がれることはないのだろうと。