第28章 よすがもなにも、どこにも
手を繋いで、恋人さながらに──形式上は恋人になったのだが─宛もなく歩く。
人混みの中ですれ違う人と肩がぶつかりそうになれば、そっと私の肩を抱き寄せるその行動にときめく心。なんてさりげなく、スマートに扱うのだろう。今までにもこんな風に接してもらった女性がいるのだろうと思えばわかり易く傷付く心を一人嘲笑う。
「どこか入るか」
「そう、ですね」
いつまでもぶらぶらと歩いているわけにもいかないし、そろそろお腹が空いてきた。先生の声に答えながら(そういえばランチが美味しいと評判のカフェが近くにあったな)そう思って先生に伝えると「そこでいいよ」と返ってくる。
お昼時で賑わう店内だったが丁度席が空いていて並ぶこともなく入ることが出来た。良かった、先生はこういう所で待つのが嫌いそうだから。
「ご注文は何になさいますか?」
「私はランチセットのAを……先生はどうします?」
「俺も同じので」
かしこまりました、そう言って店員が離れていけば訪れる沈黙。何を話せばいいのかなんて全然わからなくていつもはどんなふうに話していたっけ、上手く言葉が出てこなくて(どうしよう、)そう思った時に先生から声をかけられる。