第25章 静謐に終わりは近付く
「上鳴、声大きい……耳割れる」
電話の相手が上鳴だと分かって、思わず水分の元へ向かう足。行って、俺にどうにかできるわけでもないのに。
「わかってるから……ちゃんと話しますって」
そう言って部屋に戻ろうとしたのだろう、足を進めた水分が俺に気付いて見上げる。
「相澤先生?」
部屋に戻ったはずの俺がいることに疑問を浮かべる水分のスマホから少しだけ漏れ聞こえる上鳴の声に、ざわざわと落ち着かない心。
「あー、うん、マスコミ対策で寮生活だから……」
「……なあ、お前やっぱり上鳴と」
業務が終わった頃に見計らったように掛かってきた電話、水分の"ちゃんと話すと"いう言葉。
考えつくのは上鳴には誤解をされたら困るという、その一点だけで。俺との報道は嘘であると弁解しなければいけない、そういう関係。
「ち、違いますって…!だったらこんなことになってません」
焦ったように返すが、お前は。昨夜の水分の体にはなかったが、以前はあったあの痕を思い出して、絞り出した声。
「……けど、お前」
「っいや、あのね、とりあえず今回の件については合理的虚偽ってやつで、」
やっぱり、そういうことなんだろ。隠さなくたっていいと言ったはずなのに。結局俺は水分にいいように弄ばれていただけか。
「……水分」
真実を躊躇いなく打ち明けた水分と、その先にいる上鳴に込み上げる怒り。
「あー、とりあえず後でかけ直すわ、ごめんね」
そう言って通話を終えたらしい水分が俺に向き直る。
「なあ水分、どうして正直に言った」
そう問えば少し逡巡したらしい水分の口が開かれる。
「友達だから、ですかね…」
逡巡した様子の水分は、けれど頭に浮かんだのとは違うことを口にしたように見えた。どうしたって俺には上鳴との関係を言わないつもりらしい。
「それでみんなに言ってたら意味ないと思うがな」
友達だからと元クラスメイトに打ち明けていたら、この偽装恋愛の意味などすぐに無くなってしまう。そんな見え透いた嘘を吐くなと呆れと怒りを残して水分の元を去った。