第24章 霧散する愛の言葉
『んで、相澤先生が水分のその案に乗ったわけか』
「そう、早く事態を収めるには手っ取り早いって」
『ふーん……』
部屋に戻って事の顛末を上鳴に話せば返ってきたのは気の抜けるような声。
「ふーんってあんたねぇ……」
『でもそれって水分となら噂になってもいいってことだろ?』
「それは、どうかなあ。だって相澤先生だよ?」
『相澤先生だからこそ、だろ』
不合理を嫌う先生だからこそどうでもいい相手と噂されるのほど嫌がると思うけどな、なんて言われて。
『俺はさ、脈あると思うよ』
「えー、合コン全敗の上鳴さんに言われましても」
『ちょっ、お前それどこから聞いた!』
「響香」
『あ!い!つ!か!』
受話器の向こうで憤る上鳴に笑いが漏れる。
『まあそれはいいや。…本当にさ、水分』
「うーん……」
『あの後相澤先生とは?』
「……しましたけど」
あの後。上鳴が私につけた痕に噛み付いた先生が思い浮かんで、上鳴の言う通りに、もしかしたらそうなのかもなんて、期待すれば傷付くのに淡い期待を抱いて。
「そういえば、」
昨日の夜、私に言ったアレはその場の雰囲気だったのかもしれないけれど。確かに私に言ったのだ、好きだと。
けれど、言いかけた言葉を止める。まさか最中にそんなことを言われたと言うのも恥ずかしくて。
『なに』
「…何言おうとしたのか忘れた」
『嘘つけ、……まあ、いいけど』
深くは追求しない上鳴に「ありがとね」と小さく返して。
『でもまあ偽装恋人から本当の恋人になっちゃえばいいんじゃん』
「いや、無理でしょ」
『じゃあこのままほとぼりが冷めたらさようなら、で諦めるのか?』
「それは……無理、かな」
『なら当たって砕けろ!砕けたら俺がいる、慰めてやるから』
「……丁重にお断りしておきますね」
ひでぇな、と笑いながら返す上鳴に私も笑って電話を切った。