第24章 霧散する愛の言葉

「どうした？」

「いえ、なんでも……」

───ヴヴヴ……

「すみません、電話が」

　出ていいよ、と目でスマホを見やった先生にもう一度すみませんと返して画面を見れば着信は上鳴からで。去っていく相澤先生の背を見送りながら出れば聞こえる大音量。

『水分！ちょっとこれどういう展開！？』

「上鳴、声大きい……耳割れる」

『いや！だってさあ！』

「わかってるから……ちゃんと話しますって」

　こんなところで電話していたら誰が聞いているか分からないな、と少し待ってねと上鳴に伝えて部屋に戻ろうと足を進めれば先に部屋に戻ったはずの相澤先生が私を見据えていて。

「相澤先生？」

『え、そこに相澤先生いんの？』

「あー、うん、マスコミ対策で寮生活だから……」

「……なあ、お前やっぱり上鳴と」

「ち、違いますって…！だったらこんなことになってません」

「けどお前」

『なになに！？こんなことってなに！？』

　私は聖徳太子じゃないし二人と同時に話なんて出来ないぞ。

「いや、あのね、とりあえず今回の件については合理的虚偽ってやつで、」

「……水分」

『いや、ちょっと話が見えないんだけど』

「あー、とりあえず後でかけ直すわ、ごめんね」

　それだけ言って返事も待たずに通話を終了する。ごめんね、上鳴。

「…なあ水分、どうして正直に言った」

　私を見据える先生の目は射抜くように私の目を捉えて。

　私が先生のことを好きだと知っている唯一の友人で、今回のこの熱愛報道に誰よりも驚いているのは分かっているから、ただそれだけ。それだけだけれど、隠したい部分が多すぎて説明するには難しい。

「友達だから、ですかね…」

「それでみんなに言ってたら意味ないと思うがな」

　呆れたような声音でそう言い残して去っていくその背中に、言ってしまいたくなった。あなたが好きなのだと。