第1章 主夫①
食事を食べ終えるとはまた洗面所に向かって、手早く化粧と着替えを済ませて身支度を整える。
「じゃあ、行ってきます」
仕事に行くを玄関まで見送りに出て、手ぬぐいに包んだ弁当を手渡してやれば、へにゃりと眉を下げては笑う。
「いつもありがとうございます」
「忘れ物は無いか?携帯、財布、ハンカチ、メガネは?ちゃんと持ってるか?」
「あ!財布忘れた!」
肩にかけたバッグをゴソゴソとかき回してが言う。
「バカヤロウ、一番忘れちゃいけねぇモンだろうが」
俺はリビングにすっ飛んで行って、テーブルの上に転がっていた財布を取ってきてやる。
「ありがとうございます…えへへ」
申し訳なさそうに苦笑いをする。そんな顔されたら怒れねぇだろうが。…まぁ、そんなに目くじらを立てることでもねぇか。
「気をつけて行ってこいよ」
「はい」
チュッ、と毎朝恒例のキスを交わしてから、は玄関を出ていく。
遠ざかっていくの背中を見送りながら、毎朝少し寂しい気持ちになるなんて言ったら気持ち悪いだろうか。
小さくなっていく背中に向かって、俺はこれも毎朝恒例となった言葉をかける。
「車には気をつけるんだぞ。ちゃんと左右確認しろよ。飛び出すんじゃねぇぞ」
「はーい」
ちょっと困ったように笑って、手を振りながらは曲がり角の向こうに消えていった。
あぁ、行っちまった。どうせ今日も帰りは遅いんだろう。がいない一日はつまらねぇが、帰ってきた時に疲れを癒してやれるよう、今日も家事を頑張るか。
そうだ、この間テレビで見たシロクマ鍋が食いたいと言っていたから、今日はそれを作ってやるか。
ダイニングに戻った俺は、朝食の食器を片付け始める。
俺の一日のスケジュールは、ほぼ毎日同じようなものだ。ルーチンの、変わり映えのない内容。
だが、主夫の仕事とはそんなもんだし、その繰り返しが日々の生活を支えるのだ。