第2章 主夫②
リビングに戻り半開きになっている寝室の戸を見て、今の数分の間に起こった嵐のような出来事を思い浮かべる。
建築士であるの仕事は客あってのものだから、客の予定に合わせて急な予定変更だってザラにある。
それに加えてにはテレビや雑誌からの依頼も来るような売れっ子建築士なので、出勤時間だって決まっているようでいて決まっていないのだ。
「アイツ、大丈夫か…?途中で事故に遭ったりしなけりゃいいが…」
先ほど慌てて走っていったの後ろ姿を思い出して、俺は少し心配になった。
慎重なやつだから大丈夫だとは思うが、仕事の事で頭がいっぱいになるあまり、道路に飛び出したりはしないだろうか。
は夢中になると周りが見えなくなってしまうことがあるから、俺がしっかり守ってやらなければと思うことが時々ある。
「まぁ、とりあえず俺も朝飯を食うか…」
そう思って台所に入った瞬間、調理台の上で作り終えてフタをまだしていなかった弁当箱が目に飛び込んできた。
「!!」
ザワッと毛が逆立つ。に弁当を渡し損ねちまった!!
いつもの朝と違うドタバタの中で、うっかりしていた。さっき握り飯を渡してやる時に弁当も渡してやるべきだった。
慌てて風呂敷に包んで、俺はサンダルを引っ掛けて外へと走り出したが、すでに道にの姿はない。
この家は最寄り駅から数分のところにあるので、きっとのあの慌て様ではすでに駅に着いてしまっているかもしれなかった。
「…チッ、仕方ねぇな」
そんな訳で俺は、弁当をの職場まで持っていくことにしたのだった。