第10章 洗礼
八左ヱ門の距離の詰め方に驚きつつ、それも嬉しくて返事をしようとしたところで、八左ヱ門の向かいに座っていた三郎が級友を制した。
鉢「八、やめとけよ。あいつ今朝井戸に毒入れようとしてたぜ。」
グサッ……本気なのか冗談なのかも分からないが、三郎の心無い言葉がゆうきの胸に突き刺さる。
「…竹谷君、ごめんなさい。でも、ありがとう。」
ゆうきは無理して笑うと、1人で静かにご飯を食べだした。
しばらくすると六年の忍たま数名が食堂に入ってきて、ゆうきはバタバタと台所の方へ向かう。
雷「もう!三郎!!」
三郎の隣にいた雷蔵が、肘で三郎を小突く。
鉢「だけど雷蔵もあの女のこと信用してるわけじゃないだろ?兵助だって。」
久「……まぁな。」
雷「……それは…でもあんな顔見たら…。」
先ほど八に呼ばれた時の満面の笑み。そして、三郎の言葉を聞くや否や傷ついたような表情に変わった。それは五年全員が目撃していた。
尾「それも演技って可能性あるからね、雷蔵。」
雷「分かってる。僕も兵助も調子よくちゃん付けで呼んでるくせに本当は彼女を信じられてない…何処かでやっぱり疑っているんだ。」
鉢「…まぁ、それが忍者だからな。」
雷蔵の心の優しさに、三郎は困ったように笑った。
竹「まぁ相手に信用されてるって思わせてる方が探り入れやすいからいいんじゃね?お、ゆうきちゃん戻ってくるぞ。」