第9章 初めての朝
「うあっっっ!」
もう少しで桶が上がりきるというところで、重さに耐えきれなかったゆうきは縄から手を離してしまった。身体がつんのめり、井戸に落ちそうになった時、後ろからふわっと抱きとめられた。
バシャーン!!!
盛大に落とした重たい桶のせいで、井戸から飛沫が上がる。
鉢「何をやってるんだ、お前は…。ちょっとどいてろ。」
「す、すみません…」
三郎はゆうきから身体を離すと、井戸から水を汲み上げ始める。
(今助けてくれたのよね…?子ども相手に不覚にもドキッとしちゃった…。)
鉢「ほら!」
三郎は引き上げた桶の水を、近くにあった水瓶(みずがめ)に移すと、ゆうきに顔を洗うように促した。
「顔を洗ったらさっさと戻れ。私はお前が井戸に毒を放らないように見ておく必要があるからな。」
(…私そんなことしないのに。)
何を言い返しても今のゆうきには信頼性がない。唇をギュッと噛みしめ、バシャバシャと顔を洗い、手ぬぐいで拭くと、さっと立ち上がった。
「あの…、助けていただいてありがとうございました。では、失礼します。」
三郎に遠慮がちに微笑むと、ゆうきは軽く頭を下げてその場を去った。
鉢(チッ…別に条件反射で身体が勝手に動いただけだ。)
ゆうきの後ろ姿に三郎は面白くなさそうに舌打ちをするのであった。