第1章 【さとし】の日常。
腰を軽く引き寄せられて
口元を近付けられた。
もうキスをするのかと目を閉じて
受け入れる準備を整えた時。
対面のすぐ近くにある優しい口から
クスクスと笑い声が聞こえてきた。
それに思わず目を開き、その笑い声の
元である相葉さんへ、疑問を投げ掛けた。
智「どうして笑うんですか…」
僕が少し不満を、声に乗せて聞くと
相葉さんは益々笑みを零して答えた。
雅「だってキス、されると思ったでしょう?」
そんな当たり前のような事を聞かれて
僕も思わず、ムスッとした表情で頷いた。
…そう思って何が可笑しいっていうんだ。
雅「そこがもう、手慣れているなと…そう感じたんです」
「えぇ…?」
僕には少し理解出来ない返答をされて、
その意味を問い質すように、更に不満を表す。
雅「貴方はきっと俺よりも男同士での経験が豊富でしょうし、何よりオーナーを相手にされてる方だから…お店での評判も良い。俺みたいな初対面の相手に一体、どれほど早く身体を赦すのかなと。気になってしまったんです」
「それは、仕方ありませんよ…こっちは仕事ですから」
雅「そうですよね、やっぱり流石だと思いました」
そう言って相葉さんは、今度こそ
その優しい唇を僕の唇へ触れさせた。
「ん…んぅ、は…っ、」
相葉さんの優しい唇から伝わるのは
暖かな温もりと、理性。
舌も挿入されないで、啄むだけのキスは
酷く理性的な味がして。
僕にはそれが、とても気味悪かった…。