第1章 【さとし】の日常。
お店の店長から聴いたホテルへ
タクシーで向かう。
ホテルの付近で降ろしてもらい、
足を着けて見上げたのは。
たかがデリへルを呼んで、性交を
するにしては、高級過ぎるほどのホテル。
「こんな所へ呼びつけるなんて…一体」
僕は多少なりとも、不安を感じながら
ホテルのロビーへと向かった。
ホテル名と共に記された、部屋番号の
紙を手に、その部屋の前へ立つ。
恐る恐る部屋のベルを鳴らし
中へ居るだろう客へ知らせる。
すると、少しして扉の向こう側から
鍵の開かれる音がした。
ゆっくりと扉が開かれて、
僕を出迎えてくれたのは…。
『やぁ、智。君を待ってたよ…』
高級そうなスーツを見に纏い、
僕に端正な顔の微笑みを見せてくれる――
「オーナー…?」
潤「オーナーなんて呼び方するなよ、潤でしょ?」
僕が所属するデリへル店並びに
その系列店を束ねる、松本 潤オーナーだった。
僕はそのオーナーに促されるまま
部屋の中へと足を踏み入れた。
…オーナーが僕を指名してくれた事は
これまでにも何度かある。
オーナーは、僕の身体を気に入ってくれたみたいだし、お店に連絡するよりも直接僕に連絡してくれる事の方が多いのに。
なんで今日は、新規のお客様として
お店に連絡をくれたんだろう…。
「潤さん、どうして今日はお店の方に…」
潤「ああ、それには理由があってね…今日の相手は俺じゃないんだ」
そう言って、部屋の奥の方へ
視線を投げた潤さんの後を追い、僕も見る。
雅「初めまして、智さん。オーナーの新しい秘書を務めます、相葉 雅紀と申します」
「あ、はぁ…」
ソファから立ち上がって、丁寧に
僕に名刺を差し出してくれた
好青年の相葉さんへ、軽く会釈をした。