第2章 【かずなり】の日常。
「なんで俺…こんな事に」
頭がまだ働こうとしない。
ぼうっと、ただ思考を停止させていく。
だって、初めてだった。
この世界に入って、『そそられない』
なんて、そう言われたのは。
何だかんだ、客はみんな男を抱きたくて
世の中にむしゃくしゃして、上手くいかなくて
それで、俺たちを利用して金を払う。
だから、それ目当てで当然来るし。
俺だってそのつもりで客の元へ行く。
俺を指名している客は、
少なくとも俺に、何かしらの魅力を
感じているというわけで…。
智さんの客だったはずとはいえ、
俺だって仕事として来たのに…。
その仕事さえ果たせず、帰られるなんて。
くそ、悔しい。
絶対俺の虜にして、その金貢がせてやる…。
俺のプライドに火をつけた奴を堕として、
どこまでも深く沈ませてやる。
俺は、そう心に決めて、服を着ると
そのまま事務所へと向かった。
事務所に着いて、さっき櫻井さんから
受け取ったお金の3割を事務所へ払い、
俺は、目的の為に事務所のソファで
彼の帰りを待っていた。
暫く経ったあと、事務所に目当ての彼が
帰ってきて。
いかにも事後ですっていう
気だるさを纏わせながら、
俺と目を合わせた。
「智さん、ちょっと話…いいっすか」
智「え、僕? 僕で良いなら…」
俺は、あまり関わったことのなかった
店の先輩に、単刀直入に聞いてみた。
「俺ってそんなに魅力ないっすかね…」
智「え、えぇ? そんな事はないと思う、けど?」
智さんは、戸惑いはしつつも俺を見ながら
答えてくれた。
「どうすれば、あんたみたいな大人の魅力?ってやつを出せるんすか」
智「えっと、そんな事言われても…な」
智さんは、困ったように眉を八の字に
歪めて俺を下から上まで見上げた。
俺は、あいつを見返さないと。
堕とさないと意味がないんだよ…っ。