第2章 【かずなり】の日常。
ゆっくりと、前を歩く客の後ろを
ついて行く。
客が一人がけのソファに腰を掛けて、
俺を見上げたかと思うと。
ふわっと微笑んだ。
そして、柔らかな低音が耳に心地いい
癒されるような声で言葉を紡ぐ。
『俺は櫻井だ、今日は半日君の事を買わせてもらったよ、楽しませてもらえると嬉しい』
「は、はい。こちらこそ、頑張らせて頂きます」
櫻井と名乗ったその客は、俺の言葉に
更に顔に笑みを浮かべて俺を見上げる。
けれど、その大きな瞳に輝くのは
笑みじゃなくて、ただの漆黒の闇…。
それを見つめ返してしまったら、
吸い込まれて、終わってしまうようなそんな闇。
口元では笑みを作っているけれど
笑っていない。
何かを企んでいる、いや…俺を
試そうとしている。
そう感じた俺は、生唾をゴクリと飲み込んだ。
そしたら、案の定…。
翔「楽しませてくれるって、どんな風になのか、聞いてもいいかな?」
「え、あ…はぁ、えっと…」
唐突に投げかけられた質問に、
言葉が詰まって、何も出てこない。
こんなのいつもなら、聞き流すのに。
直ぐにベッドに引き込んでるのに。
でも、今日の相手が金持ちだからって
ビビってんのか、俺…。
くそ、なんでこんなに、ビビんなきゃなんねぇんだよ。
俺が頭の中をグルグルさせている
その間に、櫻井さんから笑顔が消えていた。
翔「だったら今すぐ脱げ」
「え…」
強く、地を響かせるような低音で
そう言われて、ビクリと肩を揺らした。
その強い瞳に逆らえそうにもなくて、
俺は、ただ言われるがまま小さく頷いて
着ているものを、一枚ずつ脱いで床に落としていった。