第3章 二人のこころ
案内を終え、自室に戻ったトランクスは先程まで一緒にいた少女について考えていた。
(笑顔が素敵だったな…)
第一印象は儚げで今にも消えそうな感じだったのを覚えている。
別の世界から来たことも関係しているのかもしれないが、あんなに透明感のある少女を見るのは初めてで戸惑ったのを覚えている。
長い黒髪と、白い肌。艶やかな黒髪はただでさえ白い肌を余計際立たせていた。細身で、身長は自分のちょうど胸あたり。
自分とは正反対のに戸惑いながらも今日一日接していたのだった。
(さん、か…)
実はトランクスは未だの名前を呼べていなかった。
人造人間との戦いに青春を費やしたトランクスは恋人はおろか友達すらいなかった。
そんな自分の目の前に現れた可愛らしい少女の名前をすぐには呼べるはずもなく…
完全に名前を呼ぶタイミングを失ってしまったのだった。
きっとざわついて止まないこの胸もそのせいなのだろう
と思い込み、自分の内の変化に気づいていなかった―。
一方その頃は、同じくトランクスについて考えていた。
(トランクスさん…)
彼の名前を心の中でポツリと呼ぶと、自然と赤らんだ顔を冷ますかのように湯船に顔をうずめた。
まだ出会って一日と少しだが、は確実に優しさと強さを兼ね揃えたトランクスに惹かれていた。
しかしこちらも鈍感でまだ自分の密かな恋心には気付いていない様子。
私といるのが嫌じゃない…そう言ってもらえただけでは有頂天だった。
さっきまでの心の痛みは消え、その代わりほんのりと暖かく感じる。孤独なこの世界で、彼と出逢えたことが唯一の希望のように感じた。
この世界に来たばかりの頃とは打って変わって心はとてもふわふわしていた。
呑気なものだなあ、とは自覚しながらもこれから始まる生活に少しだけワクワクしてしまったのは言うまでもない―。