第10章 異世界生活三ヶ月目
シドは続けて言う。
「まあ…どうしても帰りたいってんならしょうがねえけどよ。この世界に来たこともなにか理由がありそうな気がするんだ。
だからその理由やお前の気持ち次第では、この世界に居続けることもありなんじゃないかって。」
「その考えは無かったなあ…」
の気持ちは揺らいでいた。元の世界に帰ることしか考えていなかったから、シドの考えはとても新鮮だった。
しかし、カプセルコーポレーションにお世話になっている身なのでこれ以上居座り続ける訳にはいかない―。
「出来たらいいんだけどね…さすがに迷惑だよ」
は力なく笑う。
シドはそんな様子のの心を見透かしたように言う。
「まあな…理屈ではそうだろうよ。でも俺は、お前の気持ちはそうは思ってないと思うけど?」
「…っ」
は言葉に詰まってしまい、俯く。
「あー、ごめん!お前を困らせるつもりは無かったんだ!ただ、そういうのもありなんじゃないかって…変なこと言ってすまねえな!」
「う、ううん!シドが悪いんじゃないの!でも…やっぱりこれ以上は迷惑かけられないや…」
この考えは譲るつもりがないのか、頑なに拒む。
「そうか…?まあ、とりあえずはトランクスを好きでいることは悪いことじゃない!自信もってけ!」
「そうだね…!ありがとう、元気が出たよ!」
「なら良かった!」
そこへちょうどよくトランクスが着替えを済ませ帰ってきた。
「お待たせしました。更衣室が混んでて遅くなりました、すみません。」
シドは立ち上がり、笑顔で言った。
「気にすんな!さ、帰ろうぜ!」
「うん!」
の心はトランクスを好きでいいんだ、と軽くなった。しかし別な思考がまた心を支配する。
(絶対に帰らなきゃって使命感があったけど、シドに言われて気付いた…)
そう考えるの心は、ダメなことと分かりながらも一つの答えに辿り着いてしまった。
―元の世界に、戻りたくない…―