第4章 選べるわけないじゃないですか
“しまった”
そう思う頃には小生は頬を強く殴られていた。
それも平手なんて生易しいものじゃなくて
拳で…。
突然の事だったので舌を噛むかと思いましたよ、えぇ。
しかしそんな冗談すら口にする暇もなく有栖が小生に吐き捨てたのは
思いもよらない一言でした。
「別れてやる!こんな家も出てくから!!」
「待っ…」
言葉の意味を理解して、リビングから出ていく彼女を追いかけようとするも聞く耳を持ってくれず有栖は手当り次第に自分の荷物をキャリーバッグに詰めていきます。
その行動がどれだけ有栖を怒らせたのかは容易に想像がつきます。
何か言わなくては。
ほんとはこんなことがしたかったんじゃない。
「待ってください…!違うんです…!」
嘘だったなんて、それこそ嘘なんです。
「せめて話だけでも…」
何度もそう言いましたが返ってきたのは
哀しみと怒りが入り交じった冷たい視線でした。
普段ならうまい言葉の一つや二つ浮かぶはずなのにそんな目を向けられて何も言えなくなってしまった。
今小生が何を話しても言い訳にしか聞こえないなんてもうわかりきったことだったんです。
荷造りを終えた有栖は一言「さようなら」と震えた声で良い、2人の家を出ていきました。
あの時直ぐに追いかけていれば何か変わったんでしょうか。
…でもそれが出来なかったのは
俺に勇気が足りなかったせいだ。