第4章 選べるわけないじゃないですか
久しぶりに彼に会いに来た。
彼女のことを話したい。
いつもみたいな面白い嘘じゃないけれど。
彼ならきっと喜んでくれる。
そんな期待を胸にかけがえのない友の病室を訪れた。
「**?入りますよ」
思えばその日はいつもと様子が違っていたような気がします。
普段なら小生が声を掛ければ返事が帰ってくるのに
今日だけは扉のむこうは静まり返ったままで。
小生は扉を開けるまで彼はまだ寝ているのだと
友を少し可愛く思っていて…。
「…え?」
扉を開けた時、言葉を失いました。
目に見えたのは衰弱しきってやせ細った親友の姿。
いくつもの管が彼の体に繋がれていて
眠るようなその顔はまるで動かない花の様でした。
親友の命はもう長くない。
医者から説明されなくてもすぐに理解してしまった。
自分でも相当ショックが大きかったんだと思います。
その光景を見た瞬間立ちくらみがして
倒れないように壁に手をついて
なんとか意識を保ったんです。
どうして…こんなことに……。
叫びたくなるほどの後悔も
泣きたくなるほどの怒りも
全て他の誰でもない
自分自身に向けられたものでした。
彼女のことばかり考えて、親友と会うのを疎かにしていなければ、もっと早く気付けていただろうか。
彼がここまで苦しむことはなかったのだろうか。
嫌だ、死ぬな。
俺が…お前をまた笑わせてみせるから。
お前に笑い方を思い出させて見せるから。
だからそれまで…生きて…俺の、僕の、私の、小生の…。
「話を…聞いてくださいよ…」
……それはあの日、彼が倒れた日と
同じようなよく晴れた晴天のことでした。