第3章 だからって俺を巻き込まないで
「え、えーと…」
どうしようか…
まあ、別にやましいことなんて何も無いし
いいだろう。
「いいね、行こうか」
私がそう言うと幻太郎は嬉しそうに
私の手を繋いでくる。
ひんやりとしてて冷たかった。
「離して」
「え?」
「私、まだ許してない…」
「……すまない」
しゅん…と落ち込んだように1歩下がる
幻太郎は可哀想だったけど…ここで気を許したら
ダメな気がして厳しく接する。
そうよ、私は怒ってるの。
手を繋がないまま一定の距離を保って
またあの店に行けば独歩と目が合う。
しかし空気を読んだのか気付かないふりを
してくれた。
さすが営業マンってやつだ。
営業マン関係ないけど。
ちなみに幻太郎も独歩に気づいた様だが
ガン無視決め込んでいた。
おいお前、そういうとこだぞ。
「それで、話ってなに?」
偶然にも店員から独歩の座る席の
真後ろとかいう微妙な席に案内され私と幻太郎は
向かい合って話を始める。
私が注文したのはオレンジジュース
幻太郎は紅茶だった。
「俺が吐いた嘘の話だが」
…あ、またこの幻太郎だ。
真面目な話をする時、彼はいつもこの目になる。
「うん、どんなつもりであんな嘘を?」
「…今は、理由は話せない
けど決して有栖の事を
馬鹿にしたりからかったりした訳じゃないんだ
だから別れるなんて言わないでくれ」
“お願いだ”と、縋るように幻太郎は言う。
こんな顔、今まで見た事なかった。
その右頬には私が昨日叩いた後が少し残ってる。
いつもは作らない目の下の隈も、少しやつれた頬も
一晩中眠れないほど私のことを想っていたのか。
嬉しかった。でもそれと同時に胸が苦しかった。
この胸の苦しさはなんだろう…?
わかんないなぁ。