第1章 締め切り前の原稿に墨汁こぼせ!
さてとりあえずどうしたものか。
完全に油断した。
とりあえず「客人」が女ってバレたら
嫌な顔はされること確実だろう。
1部の女共の横暴さのせいで男性の持つ女性への
印象はあまり宜しくないのは間違いないし。
山田一郎がどんな男なのかは噂でわかる情報しか
知らないけど…。
注意することに越したことはない。
私は玄関に聞き耳と覗き見を
立てることにした。
「おー。お前らまだ起きてたのか?
明日が土曜だからって夜更かしすんなよー」
そっか、今日金曜日か。
今週土曜日も普通に出勤あるから
曜日感覚狂ってたわ。
「すみませんいち兄
あっ、上着かけときますね」
「ありがとな三郎」
見た感じ普通…というか私よりも若く見える。
「兄貴」というより「保護者」みたいな
立ち位置だろう。
あっ、やべ振り向いた。
もう少し影に隠れておこう。
「今なにか…」
「どうしたの、兄ちゃん」
「いや。なんでもない……って
二郎、お前その頭どうしたんだ?
真っ白じゃねぇか」
「あっ、ごめんね兄ちゃん…
おれ手を滑らせちゃって…
台所の小麦粉床に全部ぶちまけちゃったんだ…」
二郎はしょんぼりとした目で一郎を見上げる。
うそ、あれが?あれがあの二郎?
お前誰なの?人格いれかわったの?
ってくらい態度が違いすぎて草も生えない。
「ほんっと、やってくれたよね!
二郎の歩いてきたとこみーんな粉で真っ白なんだけど、責任もってちゃんと掃除しろよ」
あっ、三郎は安定ですね。
安心しましたありがとうございます。
「こら三郎
二郎もわざとじゃなかったんだから
あまり刺々しく言うな」
「うっ…ごめんなさい、いち兄…」
だからどうして兄の前でだけしおらしくなる。
女子か。お前らは好きな人を前にした女子か。
「二郎も、次は気をつけるんだぞ
掃除は兄ちゃんが手伝ってやるから」
「ご、ごめんよ兄ちゃん…
仕事でつかれてるのに…俺のせいで」
私はもう突っ込まねーぞ。