第1章 締め切り前の原稿に墨汁こぼせ!
side有栖
「二郎!
突っ立てってないで客人に茶でも入れろよ!」
「っ…!わーってるよ!!」
ピンヒールを脱ぐのに苦戦する私の横を
涙目の二郎が駆けていく。
泣くほど私が泊まるの嫌なのかよ!
「はぁ…すみませんあいつ『低脳』なもので
いまご案内しますね」
そう言って末弟くんは私の前に跪いて
靴を脱がしてくれる。
やだこの子紳士。
低脳ってとこだけめちゃくちゃ強調されてる気がしたとか気にならないわ。
「ありがと末弟くん」
「三郎でいいですよ」
「兄弟揃って没個性な名前ね、三郎」
「あ、はは…」
どうぞ、と靴を揃えられていよいよ山田家の敷地に足を踏み入れれば冷えた床の感触が伝わる。
やっぱりこの季節はこんなんもんか。
「…あ、以外と背低いんだ」
「え?」
急になに?背?私これでも168ありますけど?
同世代の女子より高いんですけど〜〜?
え?もしかして自分の方が背高いから馬鹿にしてる?
対して差ないだろうが!
「あ、もしかして僕声に出してました?」
「ええ、はっきり」
わざとかと思うくらいにな。