第1章 締め切り前の原稿に墨汁こぼせ!
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「あぁ?家に女を泊めるぅ?」
いい宿泊先がある。
そう言われて乱数に連れてこられたのは
イケブクロで割と名を馳せている
「何でも屋」 萬屋ヤマダだった。
目の前で私にガンを飛ばしてきているのは
イケブクロの番犬とか言われてる山田二郎…
だったような気がする。
長男ほどでは無いがこいつもなかなか有名で
腕っぷしが強いらしい。
だからといって高校生のボウヤのくせに
レディに喧嘩売るとか何様だ。
「そーそっ、一郎には来る時電話で許可取ってあるからさ♪一晩だけでも泊めてあげなよ」
「に、兄ちゃんが良いって言ったって俺達にはなんも言われてねぇぞ!嘘だろ!」
「なーんで僕がそんな嘘つかなきゃいけないのさ〜」
ぶー、と乱数は口を尖らせる。
こう見えても成人男子だ。
とは言っても私もその時の様子はちゃんと見ている。
確かにここに来るまでに乱数は一郎から
許可を取っていた。間違いなく。
ただ「今晩客が来るから泊めてやって」としか
言ってなく、その「客」が「女」であることは
伏せている。
嘘はついてない。
『言ってないだけ』。