第1章 愛しい君は半透明人間
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それから数年の時が過ぎた。
は相変わらず人の目には見えない存在だったが、特定の人間に限ってはの姿が認識できた。
リヴァイはもちろんのこと、エルヴィン、ミケ、ハンジの三人だ。
三人にも徐々にの声が聞こえるようになっていき、次に姿が見えるようになり、身体に触れることもできるようになった。
それには個人差があるようで、一番早くできるようになったのはハンジであり、一番遅かったのはエルヴィンだった。
だからエルヴィンはしばらくの間機嫌が悪かったのだが、それを不憫に思ったがちょこちょことエルヴィンのことを気にかけていたので、やっとエルヴィンにもの姿が見えるようになった、という経緯がある。
その時のエルヴィンの喜びようと言ったら筆舌に尽くしがたいものがあり、また狂気じみた笑顔を浮かべてをびっくりさせたと、リヴァイからキツイ説教をくらったのだった。
この数年で、人類を取り巻く環境は大きく変わっていた。
対巨人兵器の発達や陣形の更なる改良により、巨人との戦闘で死亡する兵士は激減した。
調査兵団本来の任務であった壁外の調査も進み、人類の生活は以前と比べると見違えるように豊かになった。
以前までの調査兵団では、任務中に命を落とすことが多かったために、結婚する者も少なかった。
というより、結婚する前に皆若くして死んでしまう。
だが今はそうそう任務で死ぬようなことは無くなったおかげで、兵団の中には一気に既婚者が増え、兵士同士で結婚する者も多かった。
ほとんどの者は知らないが、リヴァイもその内の一人である。
もっとも、リヴァイの左薬指に光る指輪については、調査兵団内でもかなりの噂になっており、様々な憶測が飛んでいた。
だが、視線だけで人を殺せそうな迫力を放つ兵士長に対してズケズケと真実を尋ねるような猛者はいなかったので、いまだに指輪については謎とされている。