第2章 人間関係
彼女と彼の共闘6 side凍叶
一番初めに動いたのは最初に声をかけてきたチンピラだった(もちろん二人はそのことを覚えていなかった)。そのチンピラは凍季也の方飛びかかり、大袈裟な拳を放つ。が、姉が死んでからずっと剣を学び復讐の牙を研いできた凍季也にそんな拳が届くはずも無くバックステップで躱され、よろめいた最初のチンピラは凍季也に閻水で弾き飛ばされた。
それを合図にしたように男達は揃って凍季也に攻撃を仕掛け始める。凍叶はそのことに驚きつつも凍季也に組みつく勇気がなく仕方なしに女である(らしい)凍叶に掛かってきた雑魚の相手をしながら都合が良いとほくそ笑んだ。凍季也に掛かる敵は多く、自分は少ない。それは自分の剣を彼に見せることなく彼の剣を観察できるということである。もちろん闘いながら横目で見ることはできるだろうが、残念ながら彼女の剣は横目で見た程度で判る程甘くない。彼女は勝利を確信した。
凍季也が彼に掛かってきた総勢十一人の男達を相手取った戦闘を終えたのは凍叶が自分の相手(男二人)を伸した数分後の話。二人共息一つ乱していないことからも彼らの強さと対人戦への慣れが分かる。
勝利を確信して機嫌の良い凍叶は凍季也が闘っているすきに地面に置かれた荷物からちゃっかり拝借して公園の水飲み場で濡らした挙句返り血を拭ったタオルを彼に投げ渡した。
「勝手に人の荷物を漁らないでくれ。」
「ねぇ先輩ってさ___氷紋剣の使い手だよね。あの巡狂座の。」
軽く眉を顰めた凍季也の文句を華麗にスルーして凍叶はいきなり凍季也の核心を突く。それに対して凍季也は苦笑いして、僕の負けか、と呟いた。
彼らが一体何の話をしているかというと、お互いの剣の流派のことである。二人は歩き方や手の形からお互いが殺人剣の使い手であることを察し、相手がどのくらい強いのかを測るため何方か早く相手の流派を当てられるかという無言の勝負をしていたのだ。そんなことが強さの基準になるのかと思うかもしれないが、実際の戦闘時に相手の流派が判るか判らないかは勝率に大きな影響を与える。剣士として優秀な観察眼と流派の知識を持っているかどうかは十分強さの物差しになるのだ。
「それで、お前の剣は?」
凍季也にそう問われ、凍叶はにいやりと唇をつりあげた。