第2章 人間関係
彼女と彼の共闘 side凍季也
夜の十二時。凍季也はまるでそれがとてつもなく神聖で、不可侵なものであるかのように閻水を胸に当て、静かに目を閉じた。そのまま、姉と過ごした穏やかな日々を回想する。これは毎晩行われる儀式だった。姉の仇討ちを忘れない為の___復讐の意志を鈍らせない為の、儀式。___凍季也に人を傷つけさせない為と自ら剣の道に進んだ姉はこの華奢な魔道具をどんな気持ちで握っていたのだろう。窓から差し込んだ月の光が姉の形見を照らす。凍季也はそのままゆっくりとベッドに体を横たえた___ところで。
ピーンポーン
玄関のインターフォンが間抜けな音で鳴った。凍季也は自身の夢想を邪魔されたことに苛立ちこのまま無視してやろうかとも思ったが、こんな時間にまさか宅配便ではないだろうし人の睡眠を妨害する不埒者には文句を言ってやらねばなるまいと思い直し、再びベッドから体を起こすとドアを開けた。
ドアの前に立っていたのは隣の彼女だった。昼間は眠そうに細められていた瞳が今はぱっちりと開かれていて、まるで猫のようだ。
「こんな夜更けに何のようだ。」
凍季也がやや不機嫌に問うと彼女は悪びれもせずに笑った。
「帰ってくるとき聞き忘れたんだけど、もうこの町には慣れた?」
「いや…」
凍季也は彼女の言葉に毒気を抜かれ、曖昧な答えを返す。すると彼女は薄い唇を微かに笑顔の形にして、凍季也を見つめた。
「それじゃあ一緒に散歩に行かない?と言ってもちょっと遠くのコンビニに用があるだけなんだけど。」
「こんな時間にか?」
凍季也が問うと彼女はやや恥じるように笑うと、放課後は野暮用があってね、と答えた。凍季也は真夜中なのだし断ろうとも思ったが、別に特に眠いわけでもないし、何よりドアの向こうから流れ込んで来た夜の空気に身を浸すのはさぞ気持ちが良いだろう。そう考えて凍季也は彼女の誘いに乗ることにした。