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闇濡月

第2章 人間関係


彼女と彼の馴れ初め side凍季也

一週間程前の転校二日目、凍季也はSHR(ショートホームルーム)が終わるなり早々と荷物を纏め、つい先日越してきたばかりのアパートへ帰途に着いた(前日の転校初日に彼の孤独癖はクラスの全員の知るところとなっていたので彼の帰宅を阻むような怖いもの知らずは居なかった)。彼は今日は部活の勧誘に足止めされることもなく、またこの日の天気が彼の好む霧雨だったこともあり比較的機嫌良く雨音に耳を傾けていた。

と、彼は不自然なことに気が付き眉を顰めた。学校を出てからずっと、まるで弾むように軽いピチャピチャという足音が付かず離れずの距離を置いて彼を追いかけているのだ。これが通常の天気だったなら凍季也も単に行く方向が同じだったのだろうで済ませたかもしれないが、今日は雨。人間、雨の日というのは早く家に帰ろうと自然と足が早まるものである。加えて一般の枠組みにおいてかなりの"変わり者"の部類に入る凍季也は一分一秒でも長く肩を叩く雨の感触に憩っていたいという意思のもと普通に歩いていたら難なく追い越してしまいそうな速さで歩いていたのである。それにも関わらず足音は彼を追い越すことなく付かず離れず着いてきている。彼は懐の閻水を撫ぜた。先程からずっと着いてくる足音をストーカーではないかと疑ったからだ。というのも自意識過剰でもなんでもなく彼は端麗な容姿をしているだけあってとんでもなくストーカー(同性、異性関係なく)慣れしているのである。

彼は心の中で小さく嘆息すると靴の紐を結び直す振りをして立ち止まった。一秒、二秒。足音の主は歩を緩め、凍季也の横を緩慢な動作で通り過ぎ、− そしてそのままゆっくりと歩を進める。凍季也は足音の主が通り過ぎるのを確認するなり立ち上がり、目の前の人物を観察する。足音の主は同じ学校の女子生徒だった。制服のスカーフが黄色であるところから察するに一年生のようだが、平均的な女子高生よりやや背が高いことも相まって凍季也と同い年と言っても違和感がないくらい大人びていて、すらりとした足が短いセーラー服のスカートにひどく不似合いだ。

と、凍季也は緩めかけていた彼女に対する警戒を再び強めた。というのは彼女が凍季也が住んでいるアパートの中にふらりと入って行ったからである。凍季也は歩調を早めた。
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