第10章 シリウスー大人と悪魔とキスとー
"15分間のキス"
ルールの紙が光って課題を知らせる。
「っ、ほんとに、こんなこと…」
アリスはまだ信じていなかった。これは夢なんじゃないかと疑ったまま時間だけが過ぎていってしまっている感じだ。夢なら早く冷めてほしい。なのにこれは紛れもなく現実で目の前にいる喰えない男がそれを証明している。
「はじまったか。」
シリウスが腰を上げた。ゆっくりアリスへ近づいてくる。
「…」
「課題は絶対だ。出来なければ何度もやり直しさせられる。それと、決められたルールを守らなければ一発で罰を受けることになる。やり直しと罰に耐えられないならリタイアの紙ってのもあるが…それは言わなくてもわかるよな?嬢ちゃん達の国とこの国が戦争になる」
「…それは…」
「わかってるんだろ?子どもじゃないからな。」
スカしたような笑い方がアリスを追い込んでいく。
「気楽にやればいい。」
「…、なにそれ。だいたいキスなんて…大したことじゃないし」
「…ほぅ。そうなのか?」
「…すきな人じゃないとキス出来ないとでも思った?そんな夢見る乙女みたいなことあるわけないでしょ。…ここに来てる他の女の子たちと一緒にしないで。」
「…嬢ちゃんは他のアリス達とは違うとでも言いたそうだな」
「…私はあの子達みたいに…可愛くないの。何も信じてないし望んでもない。…あんたの事も、嫌い。」
「それは残念だな。」
「うるさい。…男なんて別にいなくても生きていける。」
「随分擦れた考え方だな。嬢ちゃんがいた世界で何かあったのか。」
「…っ、べつに、なにも。ただ、そう言う考え方なだけ。」
「そうか。」
時間がない。はじめるぞ。シリウスが呟くとアリスの返答を待たずに唇を重ねた。
「っ、」
アリスは硬くなる身体や震えが出ないように神経を集中してキスに答える。ーただの課題。15分なんてすぐに終わる。無心で言い聞かせながら時間が過ぎるのだけを待つ。
「…」
ほら、一瞬だった。15分が過ぎてシリウスの唇が離れる。
「…どうして口をあけない。」
「…開ける必要がないから。それは課題には含まれてないでしょ。」
「たしかにな。」
シリウスが口角を片方だけあげて笑った。アリスはそれを見ないふりして小さく息を吐いた。
next