Instead of drink 《テニプリ越前 リョーマ》
第3章 夕暮れ
さてどうしたものか。
リョーマは多分このまま私の手を引いて帰るつもりだろう。
いいのだろうか。
………これで、
これで、私のもやもやは解消されるのだろうか。
だめだ、それでは結局自分のことしか考えていない。立ち聞き、覗き。それはとても後ろめたいこと。堂々とは言えないこと。
それをした私が自身の心の薄曇りを晴れやかにしたいが為にこれ以上求めてもいいのか。惨めだ、そんなの。これは葛藤だ。
「リョーマくん、」
葛藤とは思いを心の中でぶつけ合いその意味や答えの方向を自分で導いていくこと。時間をかけて。のはずが気づけば私は彼の名前を呼んでいた。
リョーマが私を見る。
なに?と声を発したわけではないが彼の目は私の言葉の続きを待っているように見えた。
覇気のない電灯だけが照らされたこの公園。
あの時の私とまるでシンクロしているようだ。
覇気のない顔でこの人とあの子を見ていただろう。嫉妬だけはこの人とあの子を照らして。
それならばやはりもうそうするしかないと思った。言ってしまえ。私の心が私に合図を出す。今だ言え。
「あ、あの時桜乃ちゃんとどんな話をしていたの?」
私は私の合図に逆らうことなくむしろぴったりと合わせて言った。
言葉を詰まらせずにはっきりと。
多分私の顔は少し笑っていただろう。
誤魔化すために。それがたいしたことないとでも彼に伝えるように。
それなのにリョーマの顔からはわずかに視線を逸らしている。
「それ聞いて どうすんの」
タイミングよく車のクラクションが鳴る。
遠くから救急車のサイレンの音が聞こえる。
私の頭の中にもサイレンが響く。
私は自我に負けて本当は聞かない方がいいことを聞いたのだ。まるでカウントをとったような合図を受けて。
ソレキイテドウスンノ
彼のその言葉が耳で繰り返す。
あの時のあの時間は私には全く関係のないことだ。だからそれを聞いてどうするのだろう。
どうして、
どうして気にしてしまうんだろう。
どうして、どうして
私は嫉妬をするんだろう。
それは、
彼を、リョーマを
あの子に
取られたくないからだ。