Instead of drink 《テニプリ越前 リョーマ》
第3章 夕暮れ
の手首を掴んだままリョーマは言った。
「俺は気づいてるのにアンタは気づいてないってどういうわけ」
瞳が、揺れる。
「さっきも聞いたよね 俺がアンタのこと好きなの知ってた?って」
掴まれた手首に力が込められてるのがわかる。
暗闇の中でもリョーマが自分を見つめているのがわかる。
そんなことを言われても...だ。
私は常にネガティブな感情でいたし、「常識」として考えても私が彼の恋愛対象になるとは思えなかった。思えるわけがなかった。自分の中で思い描いても虚しくなるだけ。空虚な心の中はさらに虚ろになる。妄想の中の自分だけは彼と同年代で彼の隣で笑うけれどそれも泡沫の夢。
そんな中であっても彼に対する自分の態度は誰が見ても普通ではなかったと思うし、いくら恋愛に鈍感そうなリョーマでも私のそれに気づいたのはまあおかしくはない。好きか嫌いか多分どちらかでやや強めの自信の持ち主のリョーマなら好きの方だろう。(多分)
でもあくまでもそれは私のリョーマへの感情であり、リョーマの私への感情には結びつかない。
私を含めた誰もが否定するはずだ。
そんなことを考えながら、私は何も言えなかった。リョーマに手首を掴まれたままリョーマの眼力を受け入れるだけだった。
「俺はアンタのことずっと見てた」
長めの前髪から覗く目。
その目から自身の目も離せない。
このリョーマが、私をずっと見ていた?
誰もがこの人に魅力を感じ称賛の声を上げ憧れの眼差しを向けていたというのに。
そう、あの子も。
この人の一番近くにいたあの子。
あの子じゃなくて、私?
嫉妬がふつふつと湧き上がってくる。あの子じゃなくて、私がいいという理由を言って欲しい。私のどこが好きなのか私をどのくらい好きなのか、今ここで言って欲しい。私を好きだともっと言って欲しい。あの子のことどう思ってるの?そんな感情が私を取り巻く。渦に飲み込まれそうだ。