第16章 俺はパン嫌いだ。
一方ローは、記憶を辿り以前訪れた店へやって来た。
それは国王ザラールの実態を暴くために社に乗り込む際、変装でお世話になった衣装店だ。
慣れた様子で店に入り服を見渡す。
今のシーズン売れ行きの物からオフシーズンの物まで多種多様な品揃えの為、ここなら揃うだろうと決めていた。
紳士コーナーを素通りし、のそのそとレディースコーナーへ足を踏み入れる。
その様子を店主が見ていて声をかけて来た。
この前来た時もそうだったが、どうやら一人で切り盛りしているみたいだ。
「あーらお兄ちゃん、彼女へのプレゼント?」
ニヤニヤしながら手を顎に添え膝を擦り合わせている。
店主はオカマなのだ。
「まぁ…そんなとこだな」
舐めるような店主の視線が恐ろしくてつい背筋が凍る。
「お兄ちゃんもしかして、彼女ってこの前一緒に来た子でしょ?」
「よく覚えてるな」
「あてしイケメンは忘れないのよん」
バッシバシの睫毛をのせた瞳から発せられるオカマのウインクは最早殺人光線。
「船旅に兼ねた必要な物を揃えてほしいんだが…」
「任せてちょーだい、あてしのセンスであの子に合うもの選んであげるわ」
女よりも女らしさを追求する人種。
自分よりは分かっているはずだ。
そう信じてオカマに任せる事にした。
しかし少し心配で盗み見すると、ずば抜けて奇妙な物は選んでいないので安心したローは帽子が並んでいる棚を詮索でもしようかと思ったが、オカマに手招きされ、それは叶わなかった。
「お兄さん、何色好き?」
手招きされるまま行けばそこには様々なランジェリーが並ばれていた。
白にピンク、黒から赤まで…
レースやリボン、Tバックや紐パンなどそれはそれは充実していた。
「別に興味ねぇ」
「そんな事言って〜、本当はあるでしょ好み?」
「本人が似合ってればいいんじゃねぇのか」
「つまんないの〜、じゃあ、あてしセレクトでいいのね?」
妖しくほくそ笑むオカマを余所にローは苛々しつつ、いいから早くしろと催促する。