第16章 俺はパン嫌いだ。
そんな私達は街で一番の家具屋に来ていた。
店に入るなりくるんとした髭に蝶ネクタイ姿のひょろっとした男が営業スマイルを向けてくる。
「うーん、そうね…」
長い船旅には極力揺れなくてふかふかして適度に高反発なスプリングの方が良いよね…
そう考えながら数多く並べられたベッドを一つ一つ手の感触で確かめる。
そばには手揉みをした店員がべったりと私達のそばに張り付いている。
「お客様中々お目が高いですね、それはマットも布団もかなりの上質でございますよ」
「ふーん…そうね、確かにこれは良いわ」
「わかった」
ローは短く答えてからチェアやテーブルが並んでいる方へ移動するのでエリナも後を着いていく。
「これくらいで充分じゃない?」
木目調が暖かい温もりを感じさせる小さな丸テーブルとイスのセットを指差す。
「そうだな、ソファも選べ二人掛けくらいで良い」
随分良い待遇だな〜、そんな事を思いながら多種多様なソファを見比べる。
丁度二人掛けくらいで落ち着いたブラウンの上質な革張りの物を選んだ。
その後はクローゼットやらカーテンやらカーペットまで選ぶ事になり、エリナは家具の木目を生かしたく白基調とブラウンで統一していった。
一方ローは途中で口を挟む事になるだろうと思いきや、思いの外エリナのセンスが良くて清潔感があり自分好みでもあったから全くそんな隙はなく感心していた。
「ふぅ、こんなもんかな」
あらかた選び終えたエリナを確認してローは店員に言い放った。
「じゃあこれ全部くれ、金は今払うが物は後で仲間が取りにくる」
「はっ…はい!」
店員も予期せぬ高額購入に一瞬動揺を隠せないようだったが、とんだVIPの登場に魚に水を与えたように活き活きしていた。
「次行くぞ、来い」
会計を済ませ店の外まで見送りに来る店員を横目にエリナは既にかなり前を歩いているローを小走りで追いかける。