第9章 動物園か!
「ねぇおばちゃん、この島造船所とかある?船を探してるんだけど…」
どこかで大きな鐘楼の音が聞こえたが、特に気にはとめず店主の返事を待つ。
暫く応答がないので見上げると店主の顔は、酷く青ざめていた。
「…来たわ」
「…どうしたの?おばちゃん」
「隠れて、オズ!」
少年を奥の部屋へと移動させ、顔を両手で覆い落胆する店主。
さっきの鐘の音? 何だと言うの…?
その答えは二人組の男の登場だった。
「やぁやぁ、我が誇り高き民よ。喜べ、崇高なる我らの神に最大の奉仕の時が来た」
「酒場カトレア。前年の御奉納は金一封です」
手慣れた様子で店に入ってきたかと思えば、やけに放漫な態度が鼻につくひょろっとしたキツネみたいな男と、手元のメモをスラスラと読み上げる巨漢の熊のような男。
身なりからして、地位の高そうな事。
なんだこいつら?
「お許し下さい…ッ、うちは去年夫に病気で先立たれ生活はギリギリなんです」
「子供は?」
「…おりません」
エリナは黙って傍観している。
「子供がいないのなら変わりに金一封を捧げるのがせめてものご奉仕だ、さぁ差し出しなさい。神への暴虐でもするつもりか」
「うう……」
「僕ならいるよ!」
「はっ⁉ 駄目オズ!」
奥の部屋に隠れていたはずの少年が飛び出して来て、勇ましく二人組の男の前に立った。
その様子に、動揺と悔いを隠せない店主。
「…いるではないですか?嘘は神への大罪になりますぞ…」
「うう…ッ…どうかお許しを…!」
泣いて男の足にすがる店主。
男はそれを鬱陶しく足で追い払う。
「ちょっと何やってんのよ!」
エリナはすかさず男に食ってかかる。
「お前は?」
「客です。ちょっと女性を足で蹴るなんて酷いんじゃない⁉」
店主に駆け寄り鋭く男達を睨む。
これと言って相手にしていないのか男らはエリナを気にも留めない。
「ふむ…まぁ良い出せ」
「はい」
キツネ男の合図に、熊男が何やら布に包まれたある物を取り出し、泣き狼狽える店主に向けた。
店主はその物が放つ異様な光に吸い込まれる様に目を奪われる。
それは鏡だった。