第8章 ああ悪いベポかと思った。
誰かさんみたいに部屋に引き籠らないタイプは船旅での暇の潰し方は昼寝か釣り、専らこれに尽きる。
今日はベポも交えペンギン、エリナと三人並んで釣りを楽しんでいた。
「僕もイカ釣れないかなぁ」
小魚しかヒットしないベポは先日のエリナの成果を羨ましがる。
「やめて、ベポ。また掃除したくない」
「お前ほとんど掃除してねぇだろ!」
事件の引き金を起こした張本人より掃除していたペンギンはここぞとばかりにエリナに突っ込む。
「大丈夫よ、もう流石にあれはやめるわ。冷蔵庫に入らなくなっちゃう」
「そこじゃねぇよッ」
「お!なんかデカイのきたかも!」
骨のありそうな感触にベポは興奮して告げた。
確かに竿は大きく弧を描いている。
「おお!行けベポ!」
必死で竿を引くベポに応援するエリナ。
「って言って缶とか釣り上げちゃうんだろ〜」
ペンギンは冷静で以前、似たような時に釣り上げたのは大きなドラム缶だった事があり今回も期待していないようだ。
「イヤ…なんか違う!…そりゃあ!」
「うわぁ!」
「おお⁉」
釣り上げられた意外な獲物の登場にみんな身を乗り出し驚いた。
「アンコウじゃん!」
「でも気持ち悪い色してる。食べられんのか?」
ビチビチと暴れるアンコウは紫色をしていて、背びれと尾びれは赤色、提灯は真っ黒だった。
かなりグロテスクな色彩。
「うーん…どうなんだろ…」
わーいわーいと飛び跳ねるベポを退けとりあえず針から外そうと口元へ手を持って行ったエリナだったが突然悲鳴と共に顔を歪めた。
「いてっ…」
「大丈夫か⁉」
アンコウと目がばちっと合ったと思えば奴は提灯の先についた針のようなもので指先を刺してきた。
僅かに血が滲む指先を舐めるエリナ。
「大丈夫よ多分」
「ほんとに?…ごめんねエリナ」
「ベポが謝る事ないわ」
しょぼんと肩を落とすベポにニコッと笑えばちょっとは元気になったみたい。
「逃がそうぜ、多分食えやしない」
ペンギンは慎重に針を外し、アンコウは海へ返された。