第2章 マスターごめんね
「安心しろ、俺は今休暇中だ、慈しみの魔女様」
「…ここよりバカンスに適した島をお教えしましょうか?大将青キジ」
席一つ開け腰掛けた男の臭い匂い。
見ずともせずそれは海軍大将青キジだった。
「慈しみの魔女だなんて…いつからそう呼ばれてるのかしら」
慈しみの魔女。その異名を持つエリナは突然の青キジの登場に内心焦っていた。
「そう怖い顔すんなって。これも何かの縁だ、まぁ飲もうやないか」
何かの縁だなんて…
どうせ嗅ぎつけて尻尾捕まえに来たんでしょ?
どうしてこの状況を打開させるか脳内を高速でフル回転させる。
おかげで良い感じにほろ酔いだったのにすっかり酔いも覚めた。
以前青キジには自分のミスで不利の状況に迫られた時助けてもらった事があり、何を考えているのかわからない掴めない男だった。
正直、今青キジとはやりたくない。
「しっかしさっきからなーんか鋭い視線を感じるんだよなぁ」
「え?」
青キジがロー達の方へ振り返ろうとしたその刹那。
「酒だ酒ー!」
「あっ、いたいたキャプテーン!」
店内に響く明るい二人組の声。
「あんの、馬鹿野郎…ッ!」
呑気にこちらへ手を振るペンギンとシャチにローはこめかみに青筋が走る。
今だっ…!
エリナは両手を顔の前でクロスし、店のウィンドウを体当たりで突き破った。
途端に派手な音を立て崩れ去るガラス。
硬いアスファルトで思いの外上手く受身を取ったつもりだったが、全身に刺さるガラスに一瞬顔をしかめる。
やっぱり出口から出るべきだったかしら
でもモタモタ出来ないし窓際で良かった…!
人の良さそうなマスターだったから内心窓を突き破ってしまった事を謝りつつ、エリナは全速力でその場を離れた。
「俺達も行くぞ‼」
「は、はいっ」
やっと状況を理解したペンギン達はローのそれを合図に店を後にした。
「あーあ…あいつら派手にやりやがって」
青キジは散らばるガラスを見下ろしながら溜息をついた。
生憎外は雷鳴が轟き豪雨だった。