第2章 マスターごめんね
「“世界政府特別指名手配者、慈しみの魔女コキア島滞在” か…」
今朝届いた新聞のある吹き出し。
俺は目を通し鼻で笑った。
同時に脳を掠める封印しているはずの遠い記憶。
それは幼少の頃一人の女によって植え付けられた苦い、思い出すのもおぞましい記憶。
「ふっ…まさかな」
悪寒が走り新聞を無造作に投げ捨てる。
「キャプテン!見えて来ましたよ、コキア島」
「そうか。上陸準備をしろペンギン」
新世界のとある島。
コキア島。
ハートの海賊団は数週間振りの島への上陸に心弾ませ、いそいそと上陸の準備を進めていた。
酒に女に博打と、長期の船旅で疲れた羽を伸ばせると思うと皆垣間見るチームワークで順調に船は入江へと停泊した。
「ログが貯まるのはどのくらいだ」
「三日ですね」
「そうか、割と早いな。まぁいい、長居は無用だ」
いつもより顔色が悪いキャプテンだったが今やクルー達には関係なかった。
滞在二日目。
必要な資材や食材をほぼ買い終えた後、ローとベポは街の中心部にある酒場で飲んでいた。
「ねぇキャプテン、これ凄く美味しいよ!ねぇ聞いてる?」
「あ?ああ…」
気に入ったのか二皿目の鮭のムニエルを先程からパクパクと口へ運ぶベポを他所に、ローは険しい表情で酒を飲んでいた。
白熊が鮭をムシャムシャ食べるのは何ともシュールだが、今はそれどころではなかった。
俺は一人の女に神経を集中させている。
カウンターに座り背を向けている女。
薄暗い間接照明の下、艶めいた長い黒髪に皮の手袋、コートの下に隠された両腰に携わる拳銃二丁。
顔は確認出来ないが、ローは嫌な予感がしていた。
当たらなければいいものを…
しかしその願いは一人の男の登場により掻き消される。
カランカランーーーー
「いらっしゃい」
「…邪魔するぜぇ。オススメくれよ」
「あいよ」
ローはその光景を凝視した。
「チッ…なんでこんな所に…⁉」
「どうしたの?キャプテン…あっ⁉」
「静かにベポ」
生憎、奥のテーブル席に案内されたロー達は気付かれていないようだった。