第34章 タイムリミットはあと5分。
「どれだけ走り回ったと思う」
「………」
僅かながら肩で息をしている様子と私より雨にずぶ濡れのローを横目で見ると胸がこそばゆい。
ーーそんなに急いで来たのかしら。
手には濡れた帽子。
髪を無造作に直せばその水飛沫が少し私にもかかった。
雨は変わらず降りしきる。
雨音しか木霊しないから彼のその言葉はよく耳をこらさないと聞き逃してしまいそうだった。
「あいつとはもう何もねぇ…さっきはその、…悪かった。俺も油断した」
私はまだ一度もローの顔を見ていないけど声のトーンはいつもより一段と低い。
「もう…って、…昔まではあったって事」
ローの言葉に胸がどくんと脈打つ。
生唾を飲んだ。
ジュリアさんが恋心を抱いている所の話じゃない。
もしかして二人はーー
「前は…俺の女だった。だが随分前の話だ」
「………」
固く握り締めた掌が僅かに動く。
「…そっか」
「…………」
横目でローが私を難しい顔付きで見つめているのが分かる。
唇をぎゅっと紡いだ。