第34章 タイムリミットはあと5分。
「おいエリナ飲んでるかー?なんかつまんなそうだぞ」
シャチはすっかり出来上がっていた。
「ふふ、そんな事ないわよ?飲んでるわ」
貼り付けたような笑顔で返せばシャチは気が済んだのか違う席へ消えた。
はぁ…駄目だな、なんか。
私の思考はその次の出来事でますます悪化した。
「私もトイレ〜」
席を立ったローの後へ続いたジュリア。
二人は店の奥へ消えた。
「エリナさーん!飲んでますか〜?」
その光景をもうちょっと追いかけていたかったけど、誰かに話しかけられてそれは出来なかった。
「あ、うん。飲んでるわよ」
「俺もエリナの隣行こうと」
するとベポもジョッキ片手に同じテーブルへやってきて、大量のつまみをオーダーした。
「ベポ食べ過ぎじゃない?よくお酒も飲んでご飯も食べられるわね。私もう入んないけど」
「だって美味しいんだもん!食べたいし飲みたいし、同時進行でね」
そしてうっぷと小さくゲップしたベポが面白くてエリナは笑った。
なんか久しぶりに笑った気がする。
「あっ、やべ」
「うわっ、ちょっと!」
ガタンと椅子が激しく動く音と慌てた声が響いたと思えばジュリアさんのクルーがジョッキを倒してしまっていた。
ぼたぼたとテーブル、フロアへと広がって行くアルコールと氷。
「あらら…ちょっとおしぼり貰ってくるわ」
すぐさま動いたエリナは店員の元へ向かった。
「あ、すいませーん!ありがとうございます」
いくつかおしぼりを貰って急いで席へ戻ろうとしたけど。
ふかふか帽子が目に入って。
少し先の薄暗い廊下。
トイレは確かその先。
ん?ロー…、とジュリアさん?
向かい合って立ち話をする二人が。
ジュリアさんが何やらローへ囁いた次の瞬間。
「っ⁉︎⁉︎」
口付け合う二人。
やだ、ウソ…
信じ難いその光景。
いやだ。
狼狽えて目が離せないでいるとローがチラとこちらを見て、私がいる事に気づいた。
「っ!」
一瞬目が見開き険しい顔付きのロー。
私は無意識にその場を去った。
上手く動かない足に力を入れて店の外を目指す。
騒がしい喧騒がステレオで脳内に響く。
とても雑音に聞こえて。
ああ…ヤバイ…
とにかくそこから逃げ出したかった。