第33章 私、ローの事諦めてないから。
それから私はジュリアさんの登場にどこか心が曇っていた。
今も甲板で読書をしているけど本の内容なんてちっとも頭に入らない。
きっと今ジュリアさんはローの部屋に居るだろうから、隣接する私の部屋で過ごすのはどこか後ろめたさを感じて。
え、後ろめたさ?
いやいや、何気を使ってるんだ。
聞こえちゃまずいような会話をしているのかもしれないと、私は配慮をしているのだけれど、何だか考えれば考える程心の雲行きが怪しい。
時計を見れば二人が部屋に消えて小一時間。
「…、珈琲でも淹れよう」
とりあえず一息ついて心を落ち着けよう。
エリナは本を閉じ食堂へ向かった。
とぽとぽとソーサーに挽きたての珈琲が落ちて行くのをぼんやりと見つめていると突然響き渡る明るい声音。
「いい匂いすると思えば、私も頂いていい?」
「!」
顔を上げればウインクを決めるジュリアさんが。
「あっ、どうぞ」
「ふふ…かしこまらなくてもいいのに」
自然に私の正面へ座る。
もう一つ取り出したカップに珈琲を注ぎジュリアさんへ出した。
「あ、私ブラックでいいわ」
残された砂糖とミルクは代わりに私が使った。
「へぇ…美味しいわねこの珈琲」
「良かったです」
「さっきはごめんね、ロー借りちゃって」
「いえ、別に…」
私の表情が曇ったのをこの人は見落とさなかったのだろう。
「あっ、誤解しないでね、別にただ本借りてただけよ。私も医者だからさ」
その事実が意外で、エリナはまじまじとジュリアを見つめた。
「へぇー、お医者さんなんですか?ローより安心できますね」
「ふふ、そう?ローの腕も確かなものだから大丈夫よ」
ローとの共通点を知れば知る程、心がモヤモヤするのは何故だろう。
「エリナちゃんとローはいつ出会ったの?」
「えーっと、幼馴染みと言うか腐れ縁と言うか…それで再会して…海賊になるつもりなかったんですけどね」
「そっか、ま、人生何が起こるか分からないからね〜若いんだし今を楽しみなさい!」
がはがはと笑うジュリアにエリナもつられて微笑んだ。