第27章 一週間レンタルでお願いします。
その後ベポに食事を持ってきてもらい、その時暫くしたら出港する事を聞いた。
皆が出港の準備に取り掛かっているのに昼過ぎまで寝て悠長に食事をとっている自分に劣等感と申し訳なさを感じるが、この身体じゃ逆に迷惑がかかるしお言葉に甘えて体調不良を貫く他ない。
「お店回りしたかったのにな…畜生」
昨日は買い出しと夕方から飲んで、その後あんな展開になってしまったので目星していたお店には全く行けなかった。
出港し少し落ち着いた頃を見計らって食器を下げにコソコソと食堂へ出向く。
サッと洗い物を済ませ、皆に珈琲でも淹れるかと豆をミルへセットする。
するとシャチが入ってきた。
「なんだエリナじゃん。具合大丈夫か?」
想像以上に心臓が跳ねる。
ファンデーションで隠したが、首元や鎖骨を彩る誰かさんのマークが気づかれるのではないかと内心冷や冷やだ。
「あ、もしかして珈琲淹れてる?俺も飲みたい〜」
「ふふ、そうだと思ったの。島も出たし一休憩入れたいかと思って。体調は…大分良くなったわ」
「エリナでも体調崩すんだな…」
「私か弱いのよ?言ってなかったっけ」
「………」
食堂に芳ばしい珈琲の香りが漂い始める。
とぽとぽとカップに注ぎシャチに出す。
「エリナの淹れる珈琲うまいんだよな」
「それはどーも」
自分も熱々と湯気を上らすそれにゆっくりと口を付ける。
「エリナ約束忘れてただろ」
「約束?」
不意のそれには、全く身に覚えがなかった。
ジト目のシャチを瞳をぱちくりさせながら見つめる。
「も〜昨日だよ、スコッチが良く揃ってるバー見つけたから行こうって皆で言ったじゃねぇか〜」
「…!」
思い出した、そういえばそんな約束した。
「昨日エリナ探してもいねーし、早々船に戻っちまったのかと思って…」
「あ、あはは…うん、すっかり忘れてたわ、ごめんごめん」
「まぁ…具合も悪かった事だし結果オーライか。俺だったら酒飲んで病なんて吹き飛ばすけどな!」
にっと笑って珈琲を飲み干したシャチは食堂を後にした。
引きつった笑顔でその背中を見送る。
…動揺し過ぎ自分!
ガクッと項垂れ深いため息を吐く。
しっかりしろ私…。
初めて経験する自分の全てに吐き気がする程呆れた。