第11章 改
「どこ、行かれるんですか?」
「…、悪いが、海外遠征だ」
最悪のタイミングで要さんの大会が迫っていた。
戸惑いと、不安と…、一気に押し寄せてくる。
「向こう着いたら、すぐ電話してやっから」
「…っ」
要さんはそれは優しい声で言ってくれた。
私には、どうすることも出来ない。
決まったことには何も言えないし、瞬きする度に情けなくも涙がぽろぽろと溢れていく。
「か、な…さん…」
背中を撫でられ、優しく抱えてくれる。
背の高い要さんの視線になると、いつもの部屋が別の世界に感じた。
そのまま一緒に大きなベッドに寝転ぶ。
私が暮らすことが決まって、買い換えてくれた。
「離れたく、ないです…」
「ほんとに、悪い」
「ヒドい…私と、大会…どっちが大事なんですか…っ」
「今だけは、だ」
「普段は…?」
「比べねえ」
力強く抱き締められながら、私のどうしようもない泣き言一つ一つに答えてくれる。
こんなこと、自分だってしたくないのに。
「置いてくなんて…っ、ひどい…」
「そうだな」
「私をそうやって、捨てるんでしょ…!」
「捨てねえよ」
「千鶴さんと仲良くするんだ…」
「断じて、ねえ」
「迷惑だから?邪魔だから…!?」
「それも、思ったことねえ」
こんな、子供みたいな、私の言葉一つ一つを綺麗に否定してくれる。
声をあげて子供みたいに泣くしかなくて。
最後を惜しむように、優しい口付けをしてくれる。