第7章 愛
「なんだ、教えてないのにわかんのか?」
「あ、小さい頃、ピアノは習ってたから…。
拍子とある程度の用語ならわかります」
「知ってんなら言えよ」
要さんは立ち上がると、私と手を繋いでホールの真ん中まで歩いた。
「!!?」
「ここ捕まれ」
「む、無理ですむりむり!
ぷ、プロの方となんて、ダメです…!!」
「だからいいんだろ?」
「で、でも!」
「うるせえ」
リズムと足の運びを軽く教わり、手を直される。
「背中伸ばせ」
「…ほ、ほんとに?」
「いくぞ」
「わ、わぁっ!」
いきなり動かれて変な声が出てしまった。
言われた通りに足を動かし、要さんの動きに必死についていこうとする。
「足元見るな!」
「…っ、わ、わからない!」
「こっち見ろ」
「…っ!!!」
首を固定されて顔を無理やり合わせられた。
恥ずかしくて、死にそうだ。
でも、今日なら。
いつもより、近付けたから。
目がいつもより、見れた気がする。
「自信のない奴とは踊れないって言ったくせに……」
「今日はあるだろう?」
「……すこし……」
曲が終わると共に、軽くお辞儀をする。
その仕草も、魅了されてしまって、遅れて同じ動きをした。
「なかなかいいんじゃねえか?」
「……あ、ありがと、ございます…」
恥ずかしくて言えなかったけど、凄く嬉しかった。
要さんの隣は、もう決まっているようなものだったから。
私みたいなのでも、近付いていいんだって。
胸がまだドキドキする。
きっと、おとぎ話のシンデレラも、こんな気持ちだったのかな、なんて、少し子供みたいなことを考えた。