第5章 紅
要さんは、その日から触れてこなかった。
勿論、それが普通だと思う。
同じ家にいさせてもらっているだけで、私は何者でもないただの他人だ。
学校帰りに駅前でお買い物をすませると、要さんがいた。
出で立ちだけですぐにわかる。
メールは来てないけど、朝に合流しようと約束してたから、なんとなくそれだと思って、声を掛けようとした。
「か、……」
すぐに止めた。
(誰だろう)
黒い長い髪の、綺麗な女性が一緒にいた。
綺麗なのに凛としてて、小さい頃に見ていた映画のお姫様みたいだった。
(そういう人、いるんじゃん…。
当たり前か…)
首を横に振る。
だって、そういうのになりたかったわけじゃないし。
私が一方的に憧れているだけだし。
両手の拳を握って、ぐっと力を入れて、気分を持ち直した。
先に帰って、後でメールしようと、そう思った。
「あ、おい、」
「!!!」
それはあっさりと見つかり、鮮やかすぎる身のこなしで引き寄せられ、あまりにもある身長差を見せつけられるかの如く、隣に立たされた。
「あ!?え!!?」
「コイツがさっき言ってた…」
(要さん、恋人に私の話したの!?)
顔面が青くなりそう。
別れ話になってしまったら私のせいじゃん!
「ペットだ」
「…っ!?」
「あらー!」
目の前の綺麗な女性は、嬉しそうに目を細め、嬉しそうに顔を緩ませる。
「怖くないよ~、おいでおいで…」
「!?」
全く予想してなかった態度に驚いた。
寛容なのか、それとも信頼関係がしっかり成り立っているのか。
怒られなかった安堵の反面、落ち込んでいく。
「、この前の試合のパートナー」
「え!?あ……」
全然気付かなかったけれど、確かにあの時のドレスの女の人だ。
要さんによく似合う、本当に華やかで綺麗な人。
(私なんて、相手にされなくて当然じゃん)
胸が苦しくしめられる。
そういうのじゃないのに。
勝手に憧れてる私が馬鹿なだけなのに。
震えそうになる手をなんとか止め、頭にすら残らない会話をした。
帰り道、ずっと黙っていたのを、要さんは不思議そうな顔で見ていた。