第12章 何度でも
挙式、披露宴と滞りなく終わって、新婦さんを二次会用の少しラフな髪型と最初から希望してた真っ赤なリップで仕上げて二次会に送り出す。
「本日はご指名誠にありがとうございました。お二人の末永い幸せを心から願っています」
式場の送迎車両に乗り込む二人を見送ってシンとした新婦控室に戻って、今日活躍してくれたメイク道具たちをすべて片付ける。
「黒須さん。ちょっとよろしいでしょうか」
空いてるドアがノックされて振り向くとこの式場の総支配人だった。
「はい、何でしょうか?」
「お仕事の依頼と言いますか…お恥ずかしい話、我々の全式場では専属メイクも用意しているのですが…使っていただけるお客様が6割を下回ってしまうという異常な事態になっておりまして…リハーサル後にお断りになるお客様も少なくないというのが現状で、このままですと専属を解除して外注をというようになってしまうのですが、我々としてもそれは避けたいと思っております。我々グループのメイク全員に黒須さんの技術とサービスを講義していくわけにはいきませんでしょうか?」
「わたくしでよろしければお力になりたいのですが、少し先になってしまうことと…大変失礼な言い方ではありますが、御社のメイクさんの中に断られた理由を自ら考察し、改善しなくてはいけないという問題意識のある方がどれくらいいらっしゃるのでしょうか。ただ社の用意したカリキュラムをやるだけでは現状は変わらないと思います」
私は教えられることを教えることは一向にかまわない。でも受け手がどれだけ真剣にそれを吸収してくれるかということが講義を依頼されたときに受けるか受けないかを決める基準になる。
問題意識のない人は絶対に上達しない。
壁にぶち当たった時、まず自分がどうするべきなのか自分自身で考えることが何よりも大切だと思ってる。
「返す言葉もございません。しかし、メイクの技術向上は急務でして…」
「私が教えるのはやる気と向上心のある人だけです。任意参加制で参加費も徴収しますが、例え一人でも参加の希望があればやらせていただきます。それまでに自分に何が足りないのかレポートも提出していただきます。それが私の条件です」
「それでも構いませんのでお願いできますでしょうか」
「承知いたしました」