第7章 Chime5
東峰さんにバレッタを貰ったあの日から顔を合わせると変にドキドキしてしまいそうで、趣味になりつつあったネット通販は封印してしまっている
だが、あれから1ヶ月、今日は定期的にあるお水の宅配日
ソワソワしながら髪を纏めバレッタをつけるとそのタイミングでチャイムが鳴った
恐る恐るドアをひらくと、いつも通りに爽やかスマイルの東峰さん
指定の場所にお水を置いて貰うといつものように話し出す
なにもいつもと変わらない
あんなに会うことにドキドキしていたのに、
今は自分だけが意識していたのだと、
何故だが悲しくなった
「名字さん?」
「っあ、はい!」
何時の間にか考え込んでいた様で声を掛けられて我にかえる
顔を上げると悲しそうな表情の東峰さんが
なんで、東峰さんがそんな顔をするのだろう
「あ、と…じゃあ仕事に戻りますね」
「あっ待って…」
くるっと踵を返した東峰さんの袖を、咄嗟に掴んでしまった
「っ…?」
「す、すみません」
パっと手を離しすかさず謝るが、引き止めたのは無意識で何を話すかなんて考えていない
音にならない声を出すように口を開いては閉じ、3回ほど繰り返すと東峰さんのほうから声が上がる
「…俺のこと、怖くないんですか」
「…え?」
「この前、いきなり頬に手を当てたり…あの時携帯がならなかったら俺もしたらあのまま…」
とそこで言葉が止まる
わたしはその続きを想像してしまい顔が熱くなるのを感じた
そんなわたしの顔を見て東峰さんは目を見開き、こちらに伸ばしかけた手を止めぐっと握った
「今日、仕事が全て終わってからここに寄ってもいいですか」
「えっ、あの、はい」
咄嗟に答えたわたしに、東峰さんは困った様に笑うと今度こそドアを閉め仕事に戻った