第1章 豪雨の中で…
「………貴様、死ぬつもりだな?」
ここで漸く女はびくりと身体を弾ませた。
「俺がこの手を放せば、その落とした懐刀で喉を突くか?
未だ燃え盛る屋敷に飛び込むか?
それとも俺に………斬られるつもりだったか?」
「…………殺して。」
そう呟く女の声は震えている。
「お願い……私を殺して。
父が領民達にした非道な行いを償うには……
もう………」
「父御が俺に斬られた事は恨まぬのか?」
「………恨むなんて…」
「更に貴様自身も父御と同様に
命を持って為て償おうと言うのだな?」
「………自分では勇気が…出なくて。
貴方に斬られたかった。」
俺を見上げる女の目にじわじわと涙が浮かぶ。
だがその涙は溢れ落ちる前に豪雨に流されてしまった。
「その心意気や、良し!」
俺は女の手首を掴んだまま庭先に在る東屋へ向かう。
「………何を?」
不安さも顕わに問い掛ける女の顔も見ず、俺は言い放った。
「命を棄てるのであれば、
その身体を俺に捧げてからでも遅くはあるまい。
その前に、死ぬ気など失くす程の悦楽を与えてやろう。」