第7章 あなたと共に
いつも家の廊下から庭を見つめる彼女の為に、エルヴィンは四季に合わせて様々な花や木々を植え、剪定も今まで以上に丁寧にした。
あの浮かぬ顔がいつか自分の手で綻べば、それを切っ掛けに一度でも話が出来れば……等とまるで少年の初恋のような、淡い期待を込めて。
しかし自分の地位とユリアの地位には埋められぬ差があった。所詮自分は庭師。家の主であるカルデリアに嫁いだユリアはエルヴィンにとっては高嶺の花だった。
あの日もユリアの為にと剪定をし、道具を片付けに行った際に道具につまずき、解けたブーツの紐を結ぶ為に屈んでいると、大奥様、つまり姑にユリアが連れられて共に閉じ込められた。
これは好機だ、とエルヴィンは考えた。
本当はただ話して興味を持たれたかっただけだった……多少の下心は無い訳では無いが。
まさかの展開で関係を結んでしまったその後は、結局元の生活だったがユリアの話はずっと頭にあった。
必ず生き抜いてみせます、そう言ったユリアは小屋に入ってきた時とはまるで違う人間のようで、エルヴィンは「この人は必ず実行するはずだ」と確信していた。
きっと月の出ていない今夜を選ぶだろう。そうでないなら明日、また来なければ次。ずっとユリアを待つつもりで、ユリアに着いてこの家から出て行く、エルヴィンは決めていた。ユリアがそれを拒むなら両親の元へ送り届け、そのまま近くに住んでカルデリア家から守ると決意して。
そして遂に会えたユリアは、厚着こそしているが金は持っていなさそうだ。
どうするつもりだったのか。距離は徒歩ならかなり掛かる。飲まず食わずなら体温も更に維持出来ず死んでしまう。
今、目の前で泣き崩れるユリアの頬に触れると、ユリアは手を重ねて目を閉じた。
「エルヴィン……」
弱々しく吐かれた言葉。エルヴィンは堪らなくなり、ユリアを引き寄せて抱き締めた。